2016.04.19

プロの業界では柘と書いて「ツゲ」?柘によく似た「アカネ」とは

 伝統的な印材で、動物系に並んで多いのは木質系印材です。その中でも代表的なものは柘(ツゲ)やアカネなど。天然木をそのまま印材に加工したタイプと、圧縮や樹脂を含浸させてハンコに適した硬さに調節したタイプの2つがあります。

木質系印材

柘の特長

 木質系印材の代表格「柘」はツゲ科の木材。ツゲの木は、木偏に石という字が表すように、非常に硬い木材です。しかも繊維が詰まっているため、細かい彫刻作業に適しています。古来から櫛や将棋の駒、そろばんの玉などの加工品に用いられてきましたが、現在は90%以上が印材に使われています。一般的には、柘植、黄楊と書きますが、印章業界では昔から「柘(つげ)」の1字を使っています。一般の人には馴染みがないため、店頭では「ツゲ」とカタカナで表記することが多いようです。


 
国内のツゲ産地は鹿児島県が有名。「薩摩ツゲ」「本ツゲ」と呼ばれています。鹿児島産のツゲは、繰り返し農家が植林しているので、森林を破壊しないエコロジーな素材として注目を集めています。国内では他にも御蔵島などで採れる「御蔵島ツゲ」「島ツゲ」があります。ツゲは中国から輸入されたこともあり「中国本ツゲ」と呼ばれていましたが、印材名称が統一された現在では「柘」といえば薩摩地方の本ツゲを指します。

植林されている鹿児島の「ツゲ」

植林されている鹿児島の「ツゲ」

 ツゲの木は苗木を植えてから印材として収穫できるまで20~30年かかります。自生ではなく人の手をかけなければ成長しない、とてもデリケートな木です。苗木を植えるには、極端に狭い間隔で植える「密植」で育てるのが主流。これは隣同士の葉っぱが接触することで成長が早まるため。一般的に3センチ程度まで伸びたら挿し木をおこない、成木になるまで3~5回移植を繰り返し、丈夫になるまで育てます。管理方法は春と秋に肥料を与え、1年間に5回前後、草刈りをおこないます。小さい苗木だと枝打ちを12月に1回、害虫がつくため殺虫剤を3~6回散布します。これだけでも、いかに手間暇かけて育てられているかが分かります。 

 成長したツゲの原木は製材業者によって角材加工され、その後は全国の印材メーカーが製造します。しかしその道のりも長く、まず製材業者に持ち込まれた原木はすぐには製材せず、半乾きになるまで約1ヶ月間倉庫に保管。木は水気を含んでいるので製材すると切り口にシミができやすいからです。ちなみにシミは成長過程に枝が折れたり傷つくときにも内部にできます。そのシミや傷が製材の過程で全体の約7割に現れ、廃棄されてしまいます。残ったものをさらに印材に加工しますが、そのうち3割が2級品とみなされます。無垢の1級品は選りすぐりの印材なのです。


 
ツゲは、木質系の中では最も印章彫刻に向いていますが、湿度や衝撃によって割れが生じることもあります。耐摩耗性も、金属や動物系印材ほどではありません。一番の魅力は木質系ならではの自然な風合いと価格の安さです。そのため、役所や企業の事務作業など、大量に印章を使用する場所で採用されています。

アカネの特長

 同じ木質系印材の「アカネ」は、本柘の廉価品として主にタイ(旧国名・シャム)から輸入されていたことから、「シャムツゲ」と呼ばれていた素材です。ツゲに似た木材で、硬度が高く印材としても利用できますが、ツゲほど繊維の密度は高くありません。現在はツゲ科の植物でないことが判明したため、平成14年の印材名称統一で「アカネ」に改称されました。今も廉価品として、役所の入札や特需などの大量受注で使用される印材です。


 
現在タイでは森林伐採から洪水などの被害が出たため、伐採が禁止されています。そのため、ラオスやミャンマーなどから輸入されることが多くなっています。

その他の木質系印材

 ツゲやアカネ以外にも印材に使用される木材はあります。カバノキは、そのきめ細かさで家具材や建築内装材に好んで利用されますが、印材としてのキメや強度の点ではツゲに劣ります。そのため、美しい木目を生かしたまま樹脂を含浸させ、プレス加工を施して印材に仕上げ、商品化されています。


 その他、
世界遺産屋久島の縄文杉の土埋木から作った屋久杉印材(㈱永江印祥堂)や、東日本大震災で奇跡的に残った陸前高田市の「奇跡の一本松」の枝を用いて作られた「公印(全日本印章業協会青年部連絡協議会寄贈)」など。これらは木目が粗く軟らかい木材ですが、樹脂を含浸させたり、圧縮などの加工を施してハンコに適した印材になっています。

お手入れと保管方法

 天然の木質系印材はとてもデリケートな素材。使用の度に柔らかい布などで、印面に残った朱肉を軽くふき取る習慣をつけるとよいでしょう。長年使っていると朱肉の油質が染み込み、枠などの部分がもろくなり、欠けることがあります。また、吸湿、乾燥による歪みやひび割れを防ぐため、湿度、温度の変化が少ない場所に保管しましょう。

 

柘、アカネなどの木質系印材や、他の印材について詳しく知りたい方は、
月刊 現代印章 増刊号 知らないと恥ずかしいハンコ屋の常識をご覧ください。

 

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