火事になっても大丈夫なハンコ!?　驚異の「チタン」とは

　1980年代以降、天然素材の資源不足対策や多様化する消費者ニーズに合わせて新たに開発されたのが、金属系印材です。耐久性があり印章に適した素材で、スタイリッシュさが強調できるチタンやアルミなどが男性に人気。試し捺しで、その重量感に惚れ込む人もいるようです。近年はクリスタルを埋め込んだものや、カラフルな金属印が登場し、女性からも注目されています。

チタン印の特長

　最近になって登場したかのように思われる金属印ですが、古来の印章は金属で作られたものが大半。国宝の「金印」や、古代中国の銅印、チベットの纏型銀印など。日本でも大正から昭和初期にかけて流行した「指輪印」は銀製が多く、昔から金属＋印章の組み合わせが好まれていたことが分かります。

　近年、新たに登場した金属印の中でも代表的なのがチタン。チタンは塩分や水につけても錆びることがなく、耐食性に優れた金属です。名前の由来はギリシャ神話の「TITAN（タイタン＝巨人）」。その強度はアルミニウムの3倍で、鉄やステンレスを上回ります。熱にも強く、溶解温度は1668℃と鉄よりも高いため、万一火災が起きても焼失しにくく、ジェット機や深海探査機、宇宙開発にも使用されるほど丈夫です。また、金属アレルギーを起こさないので、人工骨やペースメーカーなどの医療器具に使われることも多く、人に優しい金属といえます。そのため、メガネフレーム、時計、アクセサリーなど日常で身に付けるアイテムにも利用されています。

　印材としても優秀で、欠けにくく変形や歪みも無いので半永久的に使えます。チタンは粒子が超微細なので印面に朱肉が均一に付着して、印肉の付き、肉離れが良く捺印性も優れています。また、独特の重量感も特徴です。ゴルファーには「チタンは軽い」というイメージがありますが、クラブに使われるチタンは、その強度を活かして中空状になっているために鉄製よりも軽くなります。しかし印材は中まで詰まった「無垢材」なので重く感じるのです。

　チタンは純チタンとチタン合金の2種類に大別でき、印材には純チタンが多く使われています。純チタンはステンレスより柔らかく複雑な印面彫刻に適しています。
　チタン印には、表面がマットな「梨地仕上げ」と、艶のある「鏡面仕上げ」があります。また、金属の色だけでなく、カラフルなカラーチタンもありますが、その色彩は塗装ではなく、電流を流して表面の透明な膜の厚みを変えることで光の屈折率が変化し、色味を表現しています。金箔などを貼ってコーティングするカラー化技法もあります。

　こうした特徴とスタイリッシュさが、男性エグゼクティブを中心に人気を集めています。「定番素材は好みではないが、いいハンコが欲しい」というニーズに応えられる高級印章といえます。販売の際は、お客さんに必ず印材を持って試し捺しをしてもらいましょう。他のハンコにはない独特の重量感と捺印感に驚くはずです。そして、その驚きが自然と販売に繋がります。一方、チタン印の特長である重量感は、事務用として何度も連続捺印する用途には不向きでしょう。一生物で、ここぞという時に捺す法人印、実印として提案できます。

その他の金属系印材

　チタン以外に有名な金属系印材と言えば、アルミや銀。変わったところでは18金や特殊アルミニウム銅印、プラチナ製の装飾印など。ただ金属をハンコの形にしただけでなく、よりファッショナブルに、より重厚感、高級感を重視した印材などバリエーションに富んでいます。

金属印の印面彫刻

　加工にはいずれも彫刻システムが必要です。チタンなどの金属印を彫るシステムとして代表的なのは、「放電加工」「レーザー」「サンドブラスト」、金属印対応の「スピンドル彫刻機」。近年はシステムが進化しており、小型かつ短時間で彫刻できる機種が各メーカーから登場しています。今までは専門業者に印面彫刻を外注する事が多く、納期に日数がかかっていましたが、近年は印章小売店がシステムを導入し、短時間で印面彫刻をおこなうことも可能になりました。システムを購入する際はどの金属が加工できるのか、メーカーに確認しておきましょう。金属印対応としている彫刻機でも、機種によっては「硬すぎて彫れない」という金属もあるので、機械選びは慎重に。

お手入れと保管方法

　基本的に金属印は変型しにくい素材。特にチタン印は錆びや熱にも強いため、お手入れや保管はあまり気を使わなくてもいいのですが、コンクリートなどの硬い所に落とした時、まれにへこむことがあるので、ケースに保管し、取扱いに注意するとよいでしょう。

 

 

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