2019.06.20

結婚しても実印はそのまま? 旧姓の印鑑登録が可能に

実印、住民票、運転免許証も旧姓OKにする理由とは?

日本政府は4月17日、総務省は全国の都道府県に対して『印鑑登録証明事務処理要領の一部改正について』という通知を出した(以下、印鑑証明の改正通知)。
この通知の内容を簡単に言えば、「今年の11月5日以降は、旧姓のハンコでも印鑑登録できるようにする」。つまり、結婚や離婚、養子縁組などで姓が変わっても、それ以前の旧姓(旧氏)のハンコが実印として使えるようになる。ただし印鑑登録制度は自治体の条例で定められているので、政府が通知を出しただけで全国一斉に実施されるわけではない。この通知を受けて、これから各自治体が印鑑条例を改正し、印鑑証明書発給システムの改修などをおこなうことになる。対応が早い自治体なら今年11月5日から「旧姓のハンコの印鑑登録」が可能になる。

登録できるハンコは旧姓、新姓のどちらか1本だけ。

しかし、住民票や運転免許証で旧姓による本人確認が可能になっても、印鑑証明書のハンコが違っていたら面倒だ。例えば、銀行と融資の契約をするシーンを想像して欲しい。契約者が本人かどうかは運転免許証で確認する。その者の現住所を住民票で確認する。そしてその本人の名前のハンコが契約書に捺され、同じ印影が印鑑証明書に記載されている……その全てが旧姓で統一されていて初めてスムーズに契約が完了する。
ところが住基法改正では各自治体の定める印鑑条例まで「旧姓に」改められないため、冒頭の「印鑑証明の改正通知」が政府から出されたというわけだ。

結婚→離婚→再婚 したらどれが旧姓なの?

では、今回出された『印鑑証明の改正通知』によって、どう変わるのか説明しよう。
現在、結婚などによって姓が変わった場合、旧姓のハンコは印鑑登録出来ないが、今年の11月5日以降、条例変更などの対応をおこなった自治体では、
◆住民票に併記されている旧姓(または旧姓と名を組み合わせたものも可)のハンコであれば印鑑登録が可能になる。
◆ただし、登録できる印鑑は1つだけ。旧姓と新姓の両方の印鑑は登録できない。
◆あらかじめ住民票の旧姓併記の請求手続きをおこない、しかもそこに記載された旧姓でなければ印鑑登録はできない。例えば、結婚→離婚→再婚を繰り返すと、複数の旧姓を持つことになるが、どの旧姓でも印鑑登録できるわけではない。
◆すでに現住地で印鑑登録が行われている場合、ほとんどの自治体では、姓が変われば自動的に登録印鑑は抹消されるが、11月5日以降、条例の改正内容によっては登録が継続されるかも知れない。例えば、独身時代に印鑑登録していた女性が住所を変更せずに結婚した場合、新郎の姓になっても独身時代の印鑑登録をそのまま継続できるかもしれない。

印鑑登録制度は自治体が決める「条例」のはずだけど……

この『印鑑証明の改正通知』はあくまで国から自治体への通知(技術的助言)なので強制力は無いが、改正の趣旨からしても、全国の自治体がこれに従う可能性が高いだろう。 ただし、これを実施するためには、各自治体の印鑑条例を改正し、印鑑証明書の発給システムを改修するなどの対応が必要となる。住民票の旧姓併記が施行される11月5日に印鑑条例の改正を間に合わせる自治体もあるだろうが、議会の開催時期の事情などもあるので、全国一斉にというわけにはいかないだろう。それ以降、態勢の整った自治体から、順次対応する形になるはずだ。

これまで印章業界では「女性は結婚したら姓が変わるから」と、姓ではなく名前のみのハンコを女性客に勧めるのが常識だったが、今後はこのような売り方も変わっていくだろう。
また、実印だけでなく銀行印の需要にも影響が出ることが考えられる。既に結婚後も旧姓で口座開設できる銀行もあるが、今の金融業界はそれを積極的に勧めてはいない。しかし、すでに政府は2017年に「結婚前の旧姓名義の口座開設に応じるよう」銀行業界に要請している。むしろ、旧姓の口座開設を一層可能にするために(口座開設時に本人確認書類として銀行が求める)マイナンバーカードや運転免許証に旧姓を併記できるようにしたわけだ。
これに対して、各金融機関が今後どう対応するかは明らかになっていないが、結婚後も旧姓の口座が開設できるのであれば、銀行印を作り替える需要も失われるのでは……という見方もある。
さらに詳しく知りたい方は、7月1日発行の「月刊 現代印章/2019年7月号」で、結婚後も旧姓のハンコを認める社会情勢と、その経済的影響などについてスクープしているので読んで欲しい。

 

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