2016.03.14

黒と朱肉のコントラストが美しい「黒水牛」、飴色の艶感が特徴の「牛角」とは

 動物系印材の代表的な素材として、漆黒の艶が朱肉と相性の良い黒水牛や、美しい飴色の牛角があります。角は体毛が変質し固くなった爪のようなもので、牙や歯よりも硬度は低めですが、適度な粘りがあり彫りやすく、弾力性に富む実用的な印材として多く使われています。個人やビジネスの実印用に人気があります。

黒水牛印材の特長

 

黒3黒1黒2

 東南アジアを中心に生息する、沼地を好むウシ科の動物である水牛。多くは農耕用に飼育されていますが、その水牛の角を印材に加工したものが黒水牛印材です。主な原産地はタイ、インド、ベトナム、ラオス、ミャンマーなどで、近年は中国の水牛から取れた角を印材にすることもあります。


 
通常、水牛の角1本から印材は1本しか取れません。角の中は場所によって密度が違い、印材に適しているのは先端に近い中心部。樹木の年輪と同じように角にも真ん中に芯が通っていて、角の芯を印材の芯に合わせて切り出したものを「芯持ち」と呼びます。芯持ちは、天然素材の宿命である経年による歪みやひび割れに強いため、印材に適しています。裁断しないと中の状態はわからないため、職人が切り出しながら印材の大きさや直径を決めます。また、切ってみないと色もわかりません。


 
自然そのままの黒い印材は「染め無し」と呼ばれ、原材料の角からわずか数%しか取れない希少品です。実際には、完全に真っ黒な素材は少なく、印材に成形した後、薬品を使って黒く染色するのが一般的です。


 
黒水牛印材は、実は数年前から深刻な供給不足に悩まされています。過去に主な生産地だったタイやベトナムの東南アジア諸国では農耕用として水牛を飼育していましたが、農業の近代化が進みトラクターなど農業機械が普及したことで家畜としての水牛が激減、それらの国から水牛の角が産出されることはほぼなくなりました。

 一方、インドでは農耕用ではなく、水牛の乳を飲む食文化があるため、牛の飼育が盛ん。安定供給が見込まれています。しかし需要の多い中国の買いたたきやBSE問題など、日本国内への輸入が安定するとは言い切れず、漆黒の輝きを持つ天然の黒水牛印材が、入手困難な希少印材となる日はそう遠くないのかもしれません。

牛角印材の特長

 

牛角3牛角1牛角2

 牛角と書いて、「うしのつの」と読みます。オーストラリアやアフリカで飼育されている食肉牛の角を印材に加工したもので、黒水牛は「水牛」ですが、牛角は「陸牛」の角です。

 黒水牛印材と同じく、角は体毛が変質したもので硬度は低め。牛角は色味に個性があり、淡いクリーム色から茶色の縞や斑が入ったもの、全体に濃色のものなど様々。模様のない淡い色が高級とされています。「白水牛」という似た印材もありますが、これは「白色の水牛の角」で、全くの別物です。


 
牛角は「色」と「白」に分けられ、全体に縞模様やブチがあるものを「色」、淡色のものを「白」と呼びます(表記は「牛角(色)」「牛角(白)」と書きます)。
 
「牛角(色)」は淡いクリームと茶色の班が混ざり合う美しい印材。ブチや縞模様がない物が上質とされますが、色や模様のある方を好む人もいます。天然素材なので同じ模様はなく、天然ゆえの個性や風合いがセールスポイントになっています。


 
「牛角(白)」は茶色い縞模様やブチが全く入らない飴色。中でも淡い飴色で透明感のあるものは珍重されます。「白」と呼ばれますが色は真っ白ではなく、クリームやグレーがかっていて、印材によって色合いや質感が違います。牛角は「色」よりも「白」が高価で、「白」の特上品は象牙に次ぐ高値で販売されます。また、象牙や黒水牛と同じく反りや割れに強い「芯持ち」もあり、高級品とされています。


 
黒水牛と同様、牛角も原材料不足が深刻化。牛角は食肉牛の角を採取して印材にしますが、食肉牛が角で傷つけあわないよう、角が成長する前に切り落とします(肉や皮に傷がつくと高値で販売できないため)。つまり、角が印材にできるサイズになる前に取られるため、材料不足に陥っているのです。


 
ところで、牛角はかつて「オランダ水牛」と呼ばれていました。名前の由来については諸説ありますが、有力とされているのが鎖国説。江戸時代の鎖国で、幕府はオランダとのみ交易関係を結んでいました。当時の日本は外国からの輸入品を「オランダもの」と呼んでいたので、その際輸入された牛角印材も「オランダ」と呼ばれた、という説です。


 
実際はオランダ産でも水牛でもないため消費者の誤認を招くとして、公正取引委員会が01年に全日本印章業組合連合会(現在は、公益社団法人全日本印章業協会に改称)に対し「素材の定義付け」の要望書を提出。全日印連は印材の名称を一般公募した結果、現在は「牛角」という名称に統一されました。

お手入れと保管方法

 黒水牛、牛角ともに、天然素材なので、まれに歪んだり変形することがあります。長期間使用しない時は、低温で埃の少ない場所に保管しましょう。縮みを防ぐため、年に1度、椿油やオリーブオイル等の植物性油を軽くなじませる程度に塗るのも良いでしょう。虫に食われることもあるので、衣料用防虫剤と一緒に保管すると効果的です。

 

黒水牛、牛角、他の印材について詳しく知りたい方は、
月刊 現代印章 増刊号 知らないと恥ずかしいハンコ屋の常識をご覧ください。

 

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