歴代天皇のお墓のハンコ「御陵印」を正しく取材しました～武蔵陵墓地編～

最も東にあり、最も新しい天皇陵

　皇陵を参拝した「しるし」である御陵印を集める旅の最後は、東京都八王子市の武蔵陵墓地。天皇陵の中では最も東にあり、最も新しいものです。
　昭和２年（１９２７）に大正天皇の陵所として選定され、その後、将来も陵墓を営建すべき地として隣接する民営地を買い上げました。現在は約46万㎡の陵墓地内に「大正天皇 多摩陵」（以下、大正天皇陵）と「昭和天皇 武蔵野陵」（以下、昭和天皇陵）、そして夫々の皇后陵があります。それらは多摩陵墓監区事務所で管理されており、御陵印はその事務所内に置かれています。
　武蔵陵墓地を訪れるには、JR中央線の高尾駅が最寄ですが、実はその駅自体も天皇陵と縁が深いようです。社寺を思わせる風格ある駅舎は、大正天皇が崩御された際に大喪列車の始発駅として突貫工事で作られた「新宿御苑仮停車場」の建物を後に移設したものです（※１）。

その駅舎を背にバス通りを５００m歩き、小さな交差点を右折。静かな住宅街を進み高尾街道の陸橋をくぐると陵墓地の森沿いの道になります。それらの参道は昭和天皇陵にちなんで「昭和のさんぽ道」と名付けられています。晩夏の蝉しぐれを聞きながら、15分ほどで陵墓地の正門に辿り着きました。

厳かな雰囲気に包まれた武蔵陵墓地を歩く

　正門からさらに１００ｍほど歩き総門を入ると、そこからは玉砂利が敷かれ、厳かな雰囲気に包まれています。
　皇族の参拝の際に使われる御休所を左に見ながら手水鉢に進み身を清め、そこから表参道に入りますが、両脇にそびえる北山杉の高さが荘厳です。まるで外界と遠く隔たれた異世界にいるように思えました。

　始めに参拝したのは大正天皇陵。大鳥居をくぐって一般拝所から手を合わせます。隣接した大正天皇の皇后陵を参拝し、新参道を昭和天皇陵へ。大鳥居の広場に入る左手前に小さな詰所があるのに気付きました。警察官が立哨しています。正門の前にも多摩御陵警備派出所がありましたが、これまで巡ったどの陵墓にもない緊張感が漂っています。また、昭和天皇陵の一般拝所奥の御拝所にテントが設けられており、陵墓監区事務所の職員によれば、「皇居から女官が御代拝（※２）に来られるために設営したもの」だといいます。教科書で習う歴史上の人物の墓ではなく、今この現代に続いている天皇家の陵墓を訪れているという、身の引き締まる思いに駆られました。

昭和天皇の御陵印は2度作られた

　４つの御陵の参拝を済ませ、御陵印をいただきに事務所へ向かいます。多摩陵墓監区事務所に置かれている御陵印は２個。「大正天皇多摩陵 貞明皇后多摩東陵」と「昭和天皇武蔵野陵 香淳皇后 武蔵野東陵」です。これまで集めた多くの御陵印が天皇陵のものでしたが、ここにある２つは天皇皇后お２人の御陵印です。生前の仲睦まじいご様子が御陵印からもうかがえます。ちなみに昭和天皇陵の御陵印は御陵営建の際に一度作られましたが、後に香淳皇后が崩御された翌年の平成13年に新たにお２人の名前で作り直されました。
　それら２つの御陵印は大切に木箱が被せられ、特製の盆に乗って記者の前に運ばれてきました。盆には大型の朱肉、印矩も添えられています。これまでのどの御陵印よりも、重く、温かみを感じました。

※１……鹿島建設の公式サイトより。
※２……月命日に天皇陛下に代わって女官が参拝すること。月命日は奇数月が７日、偶数月が16日、土日にあたる際は繰り上げられます。本取材日はその前日にあたっていたため、テントが設営されていました。