2017.05.30

硬くて燃えない最強金属チタン印鑑ってどうやって彫るの?

ファイバーレーザーでの彫刻

㈱トヨダ商事・㈱豊田商会のファイバーレーザー「Marking Starでの加工の様子

近年、新たに登場した金属印の中でも代表的なのがチタン印。錆びや熱に強いため、あまりお手入れしなくても問題ありません。溶解温度は1668度と鉄よりも高いため、火災に巻き込まれても焼失しにくい。欠けにくく変形や歪みもなく半永久的に使えるという理想的な印章です。

レーザーから放電まで彫刻方法は4種類

素材であるチタンは、塩分や水につけても錆びることがなく、耐食性に優れています。さらに強度が、鉄やステンレスを上回ることからジェット機や宇宙開発などでも使われています。
印章として使用するにはチタンに文字を彫らなければなりませんが、これほど強度のある金属をどのように彫刻しているかご存知でしょうか。その方法は大きく4つあります。

1、金属印用のスピンドル彫刻機
2、ファイバーレーザー
3、放電加工
4、サンドブラスト

それぞれの工程を詳しく説明しましょう。
まず1つ目の「金属印用のスピンドル彫刻機」はモーターの力で彫刻針を回転させチタンを彫る方法です。その場合、必要になるのが「切削油」。彫刻針と金属の加工面との潤滑や冷却のために使用します。チタンを彫る場合は必須ですが、油の片付けやセッティングに手間がかかります。そのため、象牙や牛の角などチタン以外の素材は別の機械に任せて、チタン専用機にしている印章店が多いようです。

2つ目はガルバノ式の「ファイバーレーザー」を搭載したレーザー加工機で彫刻する方法です。ファイバーレーザーは、出力が強いのでチタンなど金属への微細加工が得意。チタン印の深彫りをやってのけます。ガルバノ式は加工面積は小さいが、速度が速いのが特徴。

3つ目の「放電加工」は、電極に取りつけた金型に電流をスパーク(放電)させることによって被彫刻体(チタン)を切削する方法。電極に取り付ける金型が必要なので、事前に版下をつくって金型を用意する経費と時間がかかります。
最後は「サンドブラスト」。細かい砂粒を印面に吹き付け磨滅させることで、印面の文字部分を彫り上げる加工機または製法のことを指します。チタン印や宝石印など硬い素材の彫刻に用いられています。印面だけでなく表面の仕上げにサンドブラストを用いたチタン印も販売されています。

ファイバーレーザーで彫刻されたチタンのハンコ

ファイバーレーザーで彫刻されたチタンのハンコ

一番優れた彫刻方法はどれ?

チタン印が彫れる彫刻機やサンドブラスト、放電加工などのシステムが登場したのは1990年中盤頃。それ以前の彫刻システムは高額で、チタン印を販売している印章店の多くが外注に頼っていました。2000年にはチタン彫刻が可能なスピンドル彫刻機が高速・低価格化し、チタン印の内製に取り組む印章店も徐々に増えていきました。2013年には、新たな加工システムとしてファイバーレーザーが登場。消費者の認知も進み「定番素材ではなく、スタイリッシュで高級感のあるハンコが欲しい」という消費者ニーズに応える印材としてチタン印は男性を中心に人気が高まりました。近年、新たにチタン印の下請けを始める企業もあり、なかにはチタン印の下請けだけに特化した特殊な企業もあります。

これらの彫刻システムにはそれぞれ長所と短所があります。スピンドル彫刻機は金属以外も彫れる汎用性を持っていますが、彫刻針が消耗して折れるこがあります。
ファイバーレーザーを搭載したレーザー加工機はスピンドル彫刻機と違い彫刻針を使わないので、針折れの心配はありません。針の研磨料なども不要なので、ランニングコストで見れば彫刻機よりレーザー加工機の方が優れているといえます。しかし、チタン印彫刻に使うファイバーレーザーは、ゴム印やアクリル、木などへの彫刻・マーキングには向きません。つまり、金属の加工以外の汎用性に劣るのです。

放電加工はすでに述べた通り、事前に版下となる金型を用意する経費と時間がかかります。しかし、金型を使用するのでファイバーレーザーのように印面の底が黒く焦げたりすることもなく、キレイな印面に仕上がります。
サンドブラストの長所は印面だけでなく表面の仕上げにも使用できること。表面をサンドブラストで加工することで商品ラインナップを増やすことができます。しかし、サンドブラストは機種によってはコンプレッサーや集塵機などの他の設備も必要になります。

現在では、チタン以外にもアルミやジュラルミンなどの金属印もあります。他の金属印も、先程紹介した4種類の方法で彫刻できます。しかし金属印対応のシステムでも、機種によって「硬すぎて彫れない」ということも。金属印の彫刻に挑戦してみたい方は、彫刻システムのメーカーに「どの金属が彫れる」のかを確認しましょう。
実際に使用する時は、どういった特長を持った彫刻システムなのかを把握することが重要。この点は新しい彫刻システムが登場してもかわらないでしょう。

チタン印や金属印、ハンコの豆知識について詳しく知りたい方は、月刊 現代印章 増刊号 知らないと恥ずかしいハンコ屋の常識をご覧ください。

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