2020.03.11

人気のチタン印「ブラストチタン」とチタン印の彫り方2選

1980年以降、天然素材の資源不足対策や多様化する消費者ニーズに合わせて開発されたのが金属系印材。その中で代表的なのがチタンです。

チタンは塩分や水につけても錆びることがなく、耐食性に優れた金属です。名前の由来はギリシャ神話の「TITAN(タイタン=巨人)」。その強度はアルミニウムの3倍で、鉄やステンレスを上回る。熱にも強く、溶解温度は1668℃と鉄よりも高いため、万一火災が起きても焼失しにくいと言われています。ジェット機や深海探査機、宇宙開発にも使用されるほど丈夫な素材なんです。

また、金属アレルギーを起こさないので、人工骨やペースメーカーなどの医療器具に使われることも多く、人に優しい金属といえるでしょう。そのため、メガネフレーム、時計、アクセサリーなど日常で身に付けるアイテムに利用されることが多いようです。

チタンは粒子が超微細だから朱肉と相性がいい

印材としても優秀で、欠けにくく変形や歪みも無いので半永久的に使えます。近年、印面の彫刻技術が開発され、一般に広まりました。

また、チタンは粒子が超微細なので朱肉が均一に付着して、印肉の付き、肉離れが良く捺印性も優れています。独特の重量感、捺印感のチタンは象牙に代わるステータスのある印材として、男性エグゼクティブを中心に人気の印材。象牙や牛角は好みではないけれど、いいハンコが欲しいというニーズに応える新しい高級ハンコと言えます。

ゴルファーには「チタンは軽い」というイメージがあるようですが、クラブに使われるチタンは、その強度を活かして中空状になっているために鉄製よりも軽くなっています。ちなみに、印材は中まで詰まった「無垢材」なので、手にした時に適度な重みを感じます。一生物のハンコで、ここぞという時に捺す法人印、実印として使うとかっこいいかもしれません。

チタン印には鏡のような仕上げとブラストチタンがある

チタン印には、表面がマットな「梨地仕上げ」と、艶のある「鏡面仕上げ」の2種類があります。「鏡面仕上げ」は文字通り、鏡のように周囲の風景を反射するほど磨き上げられたチタンのこと。下写真の通り、ツヤツヤの光沢があって、「鏡面仕上げ」のネーミングにも納得できます。

鏡面仕上げのチタン

鏡面仕上げのチタン

 

鏡面仕上げのチタンのアップ

鏡面仕上げのチタンのアップ

 

「梨地(なしじ)仕上げ」とは、表面にブラスト加工を施し、マットな質感に仕上げたチタン印のこと。「ブラストチタン」と呼ばれることもあり、人気があります。ツヤを抑え、金属の質感がわかりやすいですね。

表面が梨地仕上げになっているのがブラストチタン

表面が梨地仕上げになっているのがブラストチタン

 

ブラストチタンのアップ写真

ブラストチタンのアップ写真

チタンには電流で色をつけたカラーチタンもある!

チタンは純チタンとチタン合金の2種類に大別でき、印材には純チタンが使われることが多いようです。純チタンはステンレスより柔らかく複雑な印面彫刻に向いています。チタンの中にはカラフルな「カラーチタン」というものもありますが、カラーチタンの色は塗装ではなく、電流を流して表面の透明な膜の厚みを変えることで光の屈折率が変化し、色彩を表現しています。金箔などを貼ってコーティングするカラー化技法もあるようです。

カラーチタン

カラーチタン

 

チタン印を彫刻機で彫る

チタンを彫るための彫刻設備として、高出力のレーザーや放電加工等がありますが、高額すぎて印章店が導入するのは難しかった。しかし今では技術革新により、小型印章彫刻機でもチタンが彫れるようになりました。

チタンを彫るためにはただの彫刻機ではなく、それに対応した彫刻針、スピンドルモーターを搭載した機種が必要。彫刻時の注意点は、「必ず切削油が要る」ことです。彫刻針とチタンが接する箇所を潤滑、冷却するために用いられます。

チタンを彫刻機で彫っている様子

彫刻後はこの油をキレイに掃除しなければならず、多少の手間がかかりますが、油が無いとすぐに彫刻針がダメになってしまうので要注意。切削油が飛び散らないよう、オイルガードも必要です。切削油は液状からムースタイプまで、メーカーによって違います。硬いチタンを彫ると彫刻針も摩耗しやすいため、こまめに再研磨、手入れする必要があるでしょう。また、チタンの彫刻時間は天然印材に比べて長くなる傾向にあります。導入時には彫刻時間を知り、生産性も考慮しましょう。

チタン印をファイバーレーザーで彫る

近年、注目を集めている「ファイバーレーザー」は、印章店が普段使っているCO2レーザーでは難しい、金属素材の微細加工が得意。ハンコの印面など細かい文字も彫ることができます。ただしCO2レーザーのようにゴム印や木などへの彫刻には適していません。

炭酸ガスを媒体にしてレーザーを発振するCO2レーザーに対して、ファイバーレーザーは光ファイバーが発信源。同じレーザーでも性格が異なります。

ファイバーレーザーでチタン印を彫刻する様子。

ファイバーレーザーでチタン印を彫刻する様子。

ファイバーレーザーの照射方式はガルバノ式で、レーザー光を鏡で反射させて加工したい箇所に当てるというもの。CO2レーザーに多いプロッタータイプとは、ヘッド駆動の方式に違いがあります。鏡の角度を変えるだけでレーザーの照射位置を移動させることができるので、加工スピードが速いのが特長。

さらにレーザーの照射時間を長くすることで印面の深彫りも可能。CO2レーザーと比べると加工面積が小さいというデメリットはありますが、「金属印の量産に」とファイバーレーザーを導入する印章業者は増えています。彫るだけでなく、印材側面への「マーキング」による名入れができる点も強みに繋がっています。

また金属印に対応したスピンドル彫刻機と違い、ファイバーレーザーは彫刻針を使わない。そのため針交換の手間や研磨にかかるコストが不要、というメリットもある。

チタン印の特長をおさらい!

■主な産地……国産チタン、海外からの輸入チタンも多い

■特徴……錆びにくく、熱にも強いため、欠けにくく歪みも無い。金属アレルギーをおこさない。朱肉の付きがよく、捺印性に優れている。内製するには、専用の機械が必要になる。

■主な彫刻方法……サンドブラスト、ファイバーレーザー加工、放電加工、金属印用印章彫刻機

■お手入れと保管方法……耐食、耐熱で、変形に強いため、チタンの手入れや保管はあまり気を使わなくてもいい。ただし、コンクリートなどの硬い所に落とした時、まれにへこむことがあるので、ケースに保管するなど取扱いに注意する。

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