銀行員が銀行印って呼ばないって本当？

銀行で口座を開設する時に必要になる「銀行印」。銀行に印影を登録しておいて本人確認や意思確認などに使われている印章ですが、銀行の中では「銀行印」と呼ばれていないことをご存知でしょうか。

銀行内での印章の区別

銀行では朱肉を使用して押印する印章全般を「印鑑」もしくは「ハンコ」と呼びます。この内、印鑑登録制度によって市区町村に登録されたものを「印鑑証明印」と言います。これは「印鑑登録証明書登録印」を縮めた呼び方で、一般的に「実印」と呼ばれているものです。行員同士では「実印」と呼ばずあくまで「印鑑証明印」と呼び合っているそうです。

預金口座を開設する際に登録する印鑑は「届出印」と呼ばれており、これが世間で「銀行印」と呼ばれているものです。銀行側が銀行印と言わないのは意外ですね。この届出印は、ゴム印など変形しやすい素材でなければ、大抵のものが登録できます。自分の名前以外にイラストやマークが彫られていても登録できますが、銀行によってはイラスト入りを断るところもあります。最近では「痛印」と呼ばれるアニメのキャラクターを印面に彫刻した印章を「届出印」として登録しようとする方もいますが、購入前に確認することをおすすめします。

「届出印」の重要な役目は銀行窓口での払戻しの時の本人確認です。銀行は「届出印」を照合して、本人確認をおこない他人が勝手にお金を引き出さないようチェックしています。どのように照合しているのかというと、端末の画面に印影が表示され、それと帳票に捺された印影を比べるのが一般的な方法。デジタルで読み取る印鑑照合機も発売されていますが、目視で比べている銀行が多いそうです。

銀行が管理する口座の中には10年以上、預金の出し入れがされていない休眠預金（または睡眠預金）と呼ばれる口座があります。そういった預金の払戻請求を受けた時、他人がなりすましていないかの判断材料としても「届出印」が重要です。これは定款で、誤って払戻しをしてしまった場合でも、「届出印」を確認していれば銀行側は免責されると定められているからです。

実印でも認印でも届出印にできる

「届出印」は銀行側の規定に当てはまる印鑑であればいいので、荷物の受け取りなどに使用する認印や実印でも「届出印」にすることができます。

ただし、「実印」と「届出印」を兼用していると、実印として契約書などに捺印した印影が悪用されて、不正に預金が引き出されるのでは…？　と心配する人もいるでしょう。そこで、印章業界では「実印」、「銀行印」、「認印」は各々、用途別に作っておくことをすすめています。
同じように、銀行でも実印と届出印を分けるという考えはないのでしょうか。以前、この疑問を現代印章の記者が大手銀行の上席者に尋ねたところ「銀行では実印を捺す機会には届出印もセットで使うのがほとんどです。不動産契約やマイカーローン、事業資金の融資を受ける際とか。両方の印影を相手に渡してしまっているからハンコを分けても意味がないと思います。実印だけでも悪用された時点でアウトなのですから、誰に対してどんな書類にハンコを捺すかというリスク管理の方がよほど重要ではないでしょうか」とのことでした。

一般的には実印、銀行印、認印という用途別の印章を区別して持っておくのが常識とされていますが、それは銀行側が作ったルールではないようです。「銀行口座には専用の銀行印を」というのは、昔のハンコ業界が提案したかもしれませんね。

その他、銀行の印章事情やハンコの豆知識について詳しく知りたい方は、月刊 現代印章 バックナンバー現代印章2016年12月号、現代印章2017年1月号をご覧ください。