ハンコの材料「柘」は1文字で「つげ」と読む
硬くて彫刻しやすい木材
印章に使われる素材の中でもオーソドックスなのが「柘(つげ)」。一般的には柘植、黄楊と書きますが、印章業界では昔から「柘」の1字を使います。木偏に石という字が表すように非常に硬い木材です。
繊維が詰まっているので、細かい彫刻作業に適していることから、古来より櫛や将棋の駒、そろばんの玉などの加工品に用いられてきました。現在ではほとんど印材に使用されており、印章店では「ツゲ」とカタカナで表記しているところが多くあります。
ツゲは木質系印材の中では最も印章彫刻に向いていますが、湿度や衝撃によって割れが生じることもあります。耐摩耗性も金属や動物系印材ほどではありません。しかし価格が安いため、役所や企業の事務作業など、大量に印章を使用する場所で採用されています。
江戸時代から続く薩摩ツゲ
国内の産地では鹿児島県が有名で、「薩摩ツゲ」、「本ツゲ」とも呼ばれています。鹿児島産のツゲは農家が繰り返し植林しているもので、森林を破壊しない環境に優しい素材です。
もともと江戸時代末期に、櫛の材料として天然木(薩摩古柘)から改良されたものがはじまりで、自生ではなく人の手で育成し、人為的に繁殖させる「挿し木」法を用いています。計画的に伐採と植林をおこない、苗木を植えてから印材として収穫できるまでに20~30年はかかります。
しかし成長したツゲの木、全体が印材として利用できるわけではありません。ツゲは成長過程で枝が折れたり傷がついたりすると、内部にシミができます。成長すると見えなくなりますが原木を製材する過程で発見され、全体の約7割が廃棄されます。残った3割が印材として加工されますが、1級品が採れるのはその内の8割ほど。シミがついている印材は2級品とみなされます。近年では印章小売価格の低価や製材業者の廃業などで薩摩ツゲ原木の使用量は減少しており、2級品を活用した商品も販売されています。
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