2018.10.30

来年7月以降は黒ゴム販売にご注意?

黒ゴムの画像

朱肉や溶剤系のインクを使う時に必要な「黒ゴム」。耐油ゴムとも呼ばれ、昔から印章店で扱われている定番商品です。この黒ゴムが来年7月から、気軽に販売できなくなる可能性が出てきました。

発端は、ヨーロッパ諸国で決められた「RoHS(ローズ)指令」。RoHSとは、「電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限」に関するEU(ヨーロッパ連合)加盟国内のルールで、2006年7月1日に施行、英文の名称を略してRoHS指令と呼ばれるようになりました。

RoHS指令は有害物質の使用制限とともに、人の健康も保護。環境に健全な電気電子機器廃棄物の再生と処分を目的としています。簡単に言えば、電気電子機器に有害物質を使うことを禁止し、リユースやリサイクルしやすくするための決め事。EUに加盟している28ヶ国では、この内容に即した国内法令を整備しなければなりません。

最初のRoHS指令で制限された有害物質は次の6つ。

・鉛

・水銀

・六価クロム

・PBB(ポリブロモビフェニル)

・PBDE(ポリブロモジフェニルエーテル)

・カドミウム

黒ゴムで使われる物質が禁止に?

現在、この6つの物質が含まれる電気電子機器はEU28ヶ国で販売できません。これは家電製品やプリンターなどの電気電子機器を輸出するメーカーにとって死活問題なので、各社はRoHS指令に対応した素材や禁止物質の代替え材料を使用することで問題をクリアしています。

印章業界とは縁遠い話だと感じるかもしれませんが、自店に設備しているインクジェットプリンターなどのパンフレットをよく見ると、「RoHS指令対応」と書かれているはず。知らず知らずの内にEU域外の日本でも「RoHS指令」の影響を受けているのです。

そして印章業界に直接関連するのが、2015年に決められた「RoHS 2・0指令」。

これはRoHS指令で禁止された6つの物質に加え、新たに4つの物質を禁止するもの。

追加禁止物質は次の通り。

・DEHP(フタル酸ジ―2―エチルへキシル)

・BBP(フタル酸ブチルベンジル)

・DBP(フタル酸ジ―n―ブチル)

・DIBP(フタル酸ジイソブチル)

この4物質のうち、問題となるのが「DEHP」。これは耐油ゴムを練る時に使われている可塑剤に含まれています。つまり黒ゴムは、RoHS2・0指令に対応できないのです。

ここで疑問が生まれます。「ウチの店がEU諸国に直接黒ゴムを売るわけじゃないんだから、この話は別に関係ないんじゃないの……」と。

しかし、話はそう単純でもありません。何と、「フタル酸」は、黒ゴムで捺した印影からも検出されると言うのです。印章店が売った黒ゴムが電気電子機器のパーツやパッケージ、カタログなどに捺されただけで、その商品は輸出できなくなります。もはや「印章店がEUに売らないから関係ない」では済まされない問題なのです。

 

印章店が他人事ではいられない理由

 

「RoHS 2・0指令」が始まるのは2019年7月22日から。以降、黒ゴムを販売する時は、購入者が「RoHS 2・0指令」に対応した商品を求めているかどうかを確認する必要があるでしょう。もちろん、購入者側(機械メーカーなどEUに輸出する側)の方が敏感になっている問題なので、何の確認もなく黒ゴムを注文する例は少ないとは思われますが、販売時には「輸出製品に使うか否か」の確認が必要になるでしょう。

では、お客が「RoHS 2・0指令」に対応した、「フタル酸が入っていない黒ゴムが欲しい」と注文してきた場合はどうすればいいのでしょう?

ゴム印材料メーカーの㈱豊田商会(大阪市生野区)と㈱トヨダ商事(東京都新宿区)は、

「RoHS 2・0指令で追加された4物質を含まない、代替用の耐油ゴムを自社開発しました」と言います。

それが、「RoHS2対応 黒耐油ラバー」です。鋳造用のゴムで、硬度は一番よく使われている55。同社によると、

「この黒耐油ラバーには、『不使用証明書』を付けられます。RoHS 2・0指令で禁止された物質が不使用だと証明できるので、客先から求められた場合に提出できます。これまでに100社以上のお客様から、『証明書を発行してほしい』と依頼されました」。

「RoHS 2・0指令」に直接関係する企業と取り引きしている印章店には、すでにこうした問い合せが入っているようです。来年7月のスタートに向け、動きは加速していくと考えられます。

「黒ゴムは朱肉を使う会社用角ゴム印などに使われるほか、工業用途も多いです。電化製品に型番や品番などを不滅インクで捺す。そのため、RoHS 2・0指令とは無関係ではいられない」(同社)。

豊田商会とトヨダ商事では、「黒耐油ラバー硬度70」や「グリーン耐油ラバー」、「レーザー用黒耐油ラバー」でも、RoHS 2・0指令に対応した商品を展開する予定です。

今後印章店が請ける注文の中に、「RoHS 2・0指令対応黒ゴム」が入ってくることは間違いないと考えられます。注文を取り逃がさないためにも、対応したラバーがすでに発売されていることや、対応ラバーを使っている鋳造メーカー、下請けメーカーを今から把握しておくべきでしょう。

お客側が「RoHS 2・0指令」をよく理解しておらず、印章店側が今まで通りの商品を納品していると、後で理不尽なクレームになりかねません。あくまでEU向け製品のみの話ですが、販売先でどのような使われ方をするのか予想できないのが、今回の話の怖い部分。お客に教えたり、鋳造メーカーに確認できるように、印章小売店も正しい知識を身に着けておきたいところです。

ちなみに、一般的な赤ゴムには元々フタル酸は用いられておらず、今まで通りに販売できるので、安心です。

 

黒ゴムの買い替えを促すチャンスに

 

赤ゴムと黒ゴムの比率で考えれば、赤9割、黒1割程度なので、黒ゴムのニーズはごく一部です。しかし、これまでの累計販売数でみると黒ゴムユーザーはかなり多いはず。中には、「1回注文してから何年も同じ黒ゴムを使っている」という消費者もいるはずです。これを機に「RoHS 2・0指令」をしっかり説明して、「貴方の使っている黒ゴム印は使えなくなるかも」と、買い替えを促すセールを展開するのもいいでしょう。

「RoHS 2・0指令対応」という新しく安全な素材を使っているので、従来の黒ゴムより高売りできる可能性もあります。このチャンスを逃さずアピールしていきましょう。

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